イーソリューションと毎日新聞社で定期的に行うCSRセミナー毎日Do!コラボを開催しました。今回のテーマは「企業・団体が変える発展途上国の貧困と教育問題」
報告したのはNPO法人YouMe
Nepal代表のライ・シャラドさんと、公益財団法人味の素ファンデーションシニアマネージャーの栗脇啓さんです。
初めに、栗脇さんが話しました。味の素ファンデーションは2017年に味の素が設立した公益財団法人です。栗脇さんは財団法人に出稿する前の4年間は味の素のCSR部にいました。「味の素ファンデーションは四つの活動に取り組んでいます。食と栄養改善に取り組むNPOに助成するAINプログラムでは、これまで70プロジェクトに助成しました。KOKO
Plus(ココプラス)は途上国での離乳期の栄養改善事業です。栄養制度創設プロジェクトVINEP(ビネップ)では、ベトナムに栄養制度をつくる活動に、ベトナム保健省と一緒に取り組んでいます。昨年、43人の栄養士がベトナムで初めて誕生しました。それまで栄養士はいなかったのです。『ふれあいの赤いエプロンプロジェクト』は東日本大震災復興を支援する活動です。社会に貢献するプロフェッショナル集団を目指したいと考えています」
なぜ、食品会社の味の素がこうした活動をしているのでしょうか。「味の素では、CSV(共通価値の創造)の議論をしてきました。社会価値と経済価値の両立、社会価値の向上を目指しつつ、経済価値の向上を目指すということです。味の素のCSVだからASVという名称で、共通価値を拡大する方針を打ち出しました。すると、これまでの活動の中には経済価値にはつながりにくいものがあります。社会貢献を切り捨てるのか、どうするのかという議論の中で、経済価値とあまりつながらない社会貢献は企業とは切り離して財団で続けることになりました。それでも、ベトナムでの学校給食プロジェクトは美味しくて栄養のある味の素提案のメニューが使われています。味の素の製品も使われるので、売り上げにもつながる。社会と企業の共通価値になります。栄養士の教育は経済価値よりも社会価値が大事だということで、財団が取り組みました」
昨年7月、味の素グループは「栄養ポリシー」を打ち出しました。
1地域、年齢、生活スタイルなど、様々な人々の栄養ニーズに基づき、毎日の食事の栄養バランスを向上させる製品・情報の提供を目指します。
2スマートな調理と、うま味をベースにしたおいしいメニューの提案を通じて、
食の楽しさとおいしさを実現し、こころとからだの健康に貢献します。
3たんぱく質・アミノ酸の持つ栄養及び生理機能の科学的な研究によって得られた信頼できるソリューションを提供します。
4生活者がより健康的な食品の選択と実践に役立つ様、公的機関の指針に基づくだけでなく、表示とコミュニケーションを自ら工夫し推進していきます。
5栄養に関わる社会的な活動および様々なステークホルダーとのコミュニケーションを、絶えず続けていきます。
栗脇さんは「食品会社は美味しいことが大事というのが従来の考えで、初めて栄養を前面に出したものとして意義があると思います」と語りました。ベトナムでは、野菜の摂取量が少なく、都心の子どもはオーバーウエートの子の割合が高いそうです。「ベトナムでは小学校での学校給食はごく限られた学校だけで実施されています。給食のない学校では、生徒はスナック菓子などを買い食いしています。栄養士がいないので、栄養の設計ができない。給食を出している学校でも、子どもの好む甘い、油が多い食事が出されます。都市部では親が車やバイクで送り迎えするし、運動場がなく、体育ができない。親は子どもが太るのがちょうどいいと思っています。低栄養と生活習慣病が同じ国で進行しています。だから、都市別にメニューを作り、小学校で使ってもらっています。学校関係者を巻き込み、料理人と打ち合わせをして、4年かけて給食メニューができました」
2020年に世界栄養サミットがあり、2021年には世界栄養会議が東京で開催される予定で、栗脇さんは「これにいかに貢献できるかが問われてきます」と語りました。
ライさんのYouMe学校への支援を始めたきっかけは何でしょうか。栗脇さんは「ライさんの活動については、AINプログラムで3年間の支援を始めました。ネパールの秘境に学校をというタイトルで(笑い)、内容は荒削り、栄養が専門でもなかったので、最初はどうかなと思いました。ところが、ライさんのプレゼンテーションを聞いたら、審査員の人がほれて、トップ当選しました」とライさんとの出会いを紹介し、AINプログラムのサイトに掲載されているYouMe学校の動画を映しました。
http://www.theajinomotofoundation.org/about/
栗脇さんは「学校では給食がなく、子どもたちはインスタントヌードルを食べていました。食べること、元気良くなることは大事ですので、給食を出すことにしました。現地に行ってみると、すごくたいへんなところです。カトマンズから10時間かかります。本当に秘境でした。学校に通うのに片道3時間半かかる子もいます。低地から標高1500mまで上ってきます。帰りは下りなので、少しは楽ですが、1日往復6時間以上かけて学校に通っている。それでも子どもたちが行きたいという学校でした」と話しました。
続いて、ライさんが「僕たちが故郷に学校を作ったわけ」と題して話しました。「ネパールは中国とインドにはさまれた、エベレストのある国、美しい国です。仏陀が生まれた国でもあります。僕の故郷は標高1700mにあり、電気、ガス、水道がない地域です。子どものころは4時半に起きて、水を汲みに行きました。片道1時間半かかります。学校までも片道1時間半です。10歳のときに奇跡が起こりました。国費でカトマンズの名門学校に入学することになりました。全寮制で生徒数は約1000人です。長期の休みのときは3日間歩いて実家に帰りました。日本に来たきっかけは、高校で生徒会長をしていて、日本の外務省に招待されて日本を見たことです。高校の約8割はアメリカに留学しますが、僕は立命館アジア太平洋大学に入学しました。東京大学の大学院を出て、SoftBankに入社しました」
なぜ、ライさんはこの活動を始めたのでしょうか。「僕は国費で教育を受けられたので、国に恩返しをしたかった。大学4年生のとき、故郷の同級生のことを調べました。多くは中東やマレーシアに出稼ぎに行っていました。国際空港では、出稼ぎに行く人が半分を占めます。毎日1500人が出稼ぎに出ています。安い労働者として、1日12時間働いたりします。1日平均4人の遺体が国際空港に戻ってきます。それは、研修なしに作業しているから、高層建築の仕事をしていて、事故で亡くなるなどということが起こります。暑さに適応できずに体調を崩して亡くなる人もいます。出稼ぎに行かなければならない理由の一つは、学校の現状です。ネパールでは、私立学校に行く子どもは20%、国立学校が80%です。私立学校は親がお金持ちで留学に行く生徒が多い。国立学校を出た子どもは、将来、出稼ぎに行くことが多い。国立学校は設備、インフラは悪くはないです。GDPの3.98%を教育投資にあてていて、比率は日本よりも高い。しかし、マネジメントが問題です。先生たちのモチベーションが低く、先生が遅刻、欠席する。パソコンを先生も子どもも見たことがない。また、先生たちが政党に所属していて、校長が先生たちに指示できない。先生が子どもを怒ったとしたら、子どもが自分の所属している政党の学生組織に文句を言って、デモをするといったことが起こります。マネジメントが難しいのです」
そうした現状を変えたいと、ライさんは大学4年生だった2011年、YouMe学校を設立しました。「夢」と「YouとMe」をかけたネーミングです。「自分で学校をつくるしかないと考えました。最初は、1人の先生と8人の生徒でした。大学4年生だったから、信用されていなかった。それでもやり続けて、2015年に新校舎を建てました。14人の先生と197人の子どもがいます。半分は大都市から招いた先生です。英語で教えます。子どもたちは日本の安全帽子のまねで、赤い帽子をかぶっています。3時間歩く子もいるので、雨のとき、暑いときは役に立ちます。子どもたちは帽子を自慢しています。日本の子どももかぶっているということで、日本をイメージすることができて、日本との架け橋にもなります。日本と似た教育を受けているという気持ちになります」
味の素ファンデーションとの給食プロジェクトについては、「水がなく、水代が高いので、パンの給食です。こんなパンを見たことがないと、子どもたちがすごく喜んでいます」と話しました。
パンを焼くベーカリーは味の素ファンデーションが贈ったものです。栗脇さんは「最初はどうしてパンなのかと思いましたが、話を聞いて納得しました。思い返せば、日本の学校給食もパンで始まりました。YouMe学校の子どもたちは6割が低体重で、痩せています。カロリーを摂るのが先決です。給食で得た栄養の効果を実証するとともに、保護者向け栄養教育も計画しています」と補足しました。
ライさんはYouMe学校での「和の魂」を強調しました。「和の魂とは、時間を守ること、約束を守ることです。ネパールでは、これができていません。学校の先生と子どもが守るようにすると、保護者も時間を守るようになりました。また、カーストフリーにしました。ネパールでは、掃除は低いカーストの仕事ですが、自分の学校を掃除するのは自分たちだということにしました。皆が平等だというメッセージを伝えるためです」
ライさんたちは2017年4月、2校目を設立しました。14人の先生と164人の子どもたちがいます。「ITを中心とした最先端の学校にしたい。人材育成をすれば、国の経済に貢献できると思います。30台のパソコンがあります。問題は、給料を払うのが難しいことです。両校で28人の先生と5人のスタッフがいます。将来は、2校目で利益の出せる持続可能なモデルをつくりたい。里親会員、マンスリー会員を募っています」
最後に、ライさんは「ネパールをどうにかしたいと思う、高い志を持つ若いリーダーを育てたい。僕は近い将来、ネパールに戻り、政治家になって国のリーダーになりたいと思っています」と夢を語りました。
この後、参加者と活発な質疑応答、意見交換をしました。
YouMe Nepal
http://youmenepal.org/