伝統産業を守る東京の生産者3人のトーク「昔ながらの食の魅力」

食の伝統産業を守る都内の生産者3人によるトークイベント 伝統産業を支援している「大地を守る会」の企画をお手伝いしました。 遠忠食品(中央区)の宮島一晃さん、富士見堂(葛飾区)の佐々木健雄さん、川原製粉所(練馬区)の川原渉さんが登壇 伝統的な食品は消費量の減少とともに、生産量や生産者の数が少なくなっています。日本の昔ながらの味を守るためには、私たち食べる側が作る側の生産者のことをもっと知って理解を深め、食べて応援していくことが必要です。生産者の自慢の商品を食べながら、現状と課題を知り、これからの展望を語り合いました。

 

宮島さんのお話し

「佃煮は米の消費の低下とともに売れなくなっています。小さなお子さんが『佃煮って何?』と言う。佃煮を知らない子どもが増えてきました。マルシェでひたすら子どもたちに佃煮を食べろと言っています。直接対面をして会話するのが大事だと思っています。後継者については、息子が大学を出て、やらないと言って会社に入ったのですが、最近、継ぎたいと言い出しまして。何年か会社に勤めた後、修行してから、やってほしいと思っています。原料のコウナゴの選別は、異物が入っているのを目で見て、金属探知機を通して選別します。機械では完璧に異物が取れない。原料の味を残しつつ異物を取る。真水で洗うとノリの風味がなくなります。細かくすると、はしにかからなくなる。添加物は使いません。原料を多く使う分、値段が高くなるのですが、それでも買ってくれるファンを作ることが課題です。古い職人さんがいて、1人でやる仕事を若い人と2人でやってもらいます。5年ぐらいすると何とかなります。季節によって微妙に違うものを、同じ商品にしなければならない。原料の目利きも経験がないとできません。時間をかけて技術を継承しなければなりません。多品種少量生産ができる工場にしています」

 

佐々木さんのお話し

「スカイツリー、東京駅に直営店を出しています。自分たちで売って直接声を聞くことが大事だと思っています。昔は菓子問屋が流通に出していました。今はそこに頼っていると売れなくなります。せんべい工場は暑いし、きついし、手作業です。私は小学生のころから、遊びに行きたいのに作業を手伝わされていました。若い人がやりたくはないだろうと思います。卸をしながら、小売りもしています。東京駅で売られたというと、若い人にやる気が出てきます。多品種少量生産で、季節ものを出すとか、いろいろ考えています。手焼きでやっていて、1枚1枚、焼きます。最初は腕にやけどの勲章ができます。やけどをしないようになるまで3年、4年とかかります。せんべいの道具をつくる業者もなくなっています。東京で今から工場の建てかえをするのは許可が下りない。東京では人件費の問題も大きいですね。東京でやることはリスクがあります。全国から美味しいものが入ってきます。しかし、東京で作っている価値を出す。お菓子なので、人にあげたいと思ってもらうことが重要です。パッケージも考えてやっています。鍋で揚げています。これもフライヤーでは全く味が違います」

 

川原さんのお話し

「麦茶の製造には味付けという工程がなく、焙煎が勝負です。いかに香ばしく美味しく焙煎するか。焙煎できるようになるまで、3~5年はかかります。原料がよいのが大前提です。国産麦にこだわって仕入れています。麦茶は古くは平安時代から飲まれています。一般に広がったのは江戸時代で、麦湯売りが流行ったそうです。冷蔵庫の普及とともに一般化して、大手飲料メーカーも参入しました。大手さんは熱風焙煎をしています。これは生産効率がよく、均一な商品ができます。うちは、煉瓦造りの石窯で、中に砂が循環しています。熱せられた砂で麦が焙煎されます。きなこも焙煎で香りがひきたちます。雷おこしの原料も作っています。以前は袋詰めが機械よりも早い人がいました。都合で退職して今の人に代わると、生産量が7割ぐらいになり、ちょっと困っています。焙煎は重労働です。焙煎の色は少し濃く、煎りむらがあります。麦が膨らみ、はぜた麦で作ることが大手との味の差別化になるかと思います」