乳酸菌について学ぶ毎日メディアカフェのセミナー「サイエンスの目でみる乳酸菌~乳酸菌と免疫の不思議をひもとく~」が11月2日、開催されました。
講師はアサヒグループホールディングス(東京都墨田区)R&D推進部の松下晃子さんです。松下さんは現在アサヒグループホールディングス傘下のカルピス社に入社。研究所で商品開発などに携わり、現在はアサヒグループホールディングスで研究広報を担当しています。
松下さんはまず、乳酸菌飲料「カルピス」について説明しました。「1902年、カルピス創業者の三島海雲(1878年~1974年)が、モンゴルを訪れました。現地で体調を崩したのですが、現地で飲まれていた発酵乳『酸乳』を飲み、体調がよくなりました。おいしくて体にいいものをつくり、日本人の健康づくりに役立てたいと考え、誕生したのがカルピスです」。カルピスは1919年7日7日に発売され、まもなく100周年を迎えます。牛乳を原料とし、脱脂乳を乳酸菌と酵母菌を含むいわゆる「カルピス菌」で発酵させ、再度温度などの条件を変えて発酵させた二次発酵乳が、カルピスとなります。
続いて松下さんは、乳酸菌がどんな菌なのか説明しました。「乳酸菌とは、糖を分解して乳酸を作る細菌の総称で、大きさは約2マイクロメートル(1マイクロメートルは、1ミリメートルの1000分の1)で、肉眼では見えません。現在発見されているだけで約400種類あります。大きく分けて細長い形をした『桿菌(かんきん)』と、丸い形をした『球菌』があります。このほかにも、胃酸などの酸に対する強さの違いや、生育に適した温度の違いなど、さまざまな特徴、違いがあります」。ここで、2種類のヨーグルトを食べ比べ、乳酸菌の違いを体験しました。酸っぱい成分を作る乳酸菌「ラクトバチルス・ブルガリカス」で発酵させたヨーグルトは、酸味が強く、分離した感じ。とろみ成分を作る乳酸菌「ラクトコッカス・ラクティス・クレモリス」で発酵させたものは、やはりとろみがある感じでした。さらにカルピスや、ブルガリアヨーグルトの中の乳酸菌を顕微鏡で見てみました。
カルピスやヨーグルト以外にも、乳酸菌を使った発酵食品は、キムチやサワークラウト、ふなずし、みそ、ワインなどたくさんあります。松下さんは「発酵によって保存性を高めたり、栄養価が高まったり、独特の味わいが加わったりします」と説明しました。
引き続き松下さんは、乳酸菌が体にいい理由について、3点挙げました。
① 乳酸菌のつくる乳酸が、腸内の悪玉菌の増殖を防ぐ。
② 体内のさまざまなスイッチを入れる役割を果たす。
③ 乳酸菌が作り出す成分で、血圧を下げる、認知機能を改善するなどの役割を果たす。
②のスイッチについて。松下さんは「腸は『第2の脳』と呼ばれるくらい、神経網が集中していて、神経を介して脳に信号が送られ、ストレスホルモンの分泌が抑えられたりします。また、免疫細胞の半数以上が腸に集中しており、免疫を活性化させる信号を発したりします」と、説明しました。また、乳酸菌とビフィズス菌の違いについては、「ともにおなかの中にいて整腸など健康に役立ちますが、全く違う生き物です。酸素があっても生きられる乳酸菌は、酸素の多い小腸に、酸素がない環境を好むビフィズス菌は、より酸素の少ない大腸にいる、という違いがあります」とのことでした。
さらに松下さんは、カルピス社の「ラクトバチルス・アシドフィルスL-92株(L―92乳酸菌)」が免疫機能に与える効果について、データを使って詳しく説明しました。
免疫とは、細菌やウィルスなどの病原体から体を守る機能のことです。「さまざまな役割を果たす免疫細胞たちは、体外から粘膜を超えて侵入してきた病原体を、連携プレーによって排出しようとします。免疫細胞が集中する腸壁の『パイエル板』という部分から取り込まれる『L―92』は、抗体を作ったり、感染細胞を破壊したりといった、それぞれの免疫細胞の役割を活性化させます」。また、花粉症などのアレルギー症状は、免疫細胞の過剰反応によって引き起こされますが、「L-92」がこうしたアレルギー症状を抑制するという性質についても紹介しました。
松下さんは「乳酸菌と免疫との関係は、いまだに何が起こっているかナゾが多い世界です。乳酸菌の力を上手に活用することで、さまざまな疾患の予防や改善ができるようになるかもしれず、今後もまだまだ乳酸菌の可能性が広がると考えています。是非期待してください」と話しました。