日本の伝統野菜を守る試み

地域に古くから伝わる野菜の魅力について考えるセミナー「日本の伝統野菜を守る試み」が7月29日、毎日メディアカフェで開かれました。
 講師は、埼玉県熊谷市で無農薬、有機栽培を行う「ふかや農場」の深谷恵子さんと、有機野菜の宅配などを手がける「大地を守る会」(千葉市)広報担当の町田正英さんです。深谷さんは、大地を守る会の生産農家でもあります。年間を通じて100種類前後の野菜を栽培しているそうですが、その手法は、栽培した野菜の種を採って次の野菜を育てる「自家採種」というもので、自家採種を代々繰り返し、風土に合わせて形を変え、残っていくものが在来品種だそうです。大地を守る会の生産者約2500の中で、自家採種で生産されているのは深谷さんだけだそうです。
 まず、町田さんから、埼玉県深谷市の「埼玉白なす」や、岩手県久慈市などの「うるい」、埼玉県秩父市の「大滝いんげん」、鹿児島県の「辺塚だいだい」「唐芋」、沖縄県の「島にんじん」など、各地の郷土野菜の紹介がありました。埼玉白なすについて、深谷さんは「あの辺はうどん文化圏ですが、ご祝儀には必ずうどんを食べます。汁の中には、必ず煮た白なすを入れます。食べ物は文化だよね、というか、食べ方がその地方の文化にもなっているいい証拠だと思います」と語りました。
 続いて深谷さんから、ふかや農場の紹介がありました。経営規模は大豆や野菜の畑が155アール、田が84アール、ハウスが2アール。栽培のほか、みそやにんじんジュース、キムチなどの加工品も手がけています。
 無農薬、有機栽培で、除草剤も一切使わないそうですが、そのためにさまざまな工夫をしています。その一つ「混植」は、収穫したい野菜の間に別の植物を植えて害虫を防いだりするもので、今が旬のナスやトマト、ピーマンにはバジルを混植しているそうです。「無農薬に徹するためにいろいろと知恵を振り絞っています。一番困るのは雑草。農薬よりも除草剤を使わない農業の方が難しいと思っています。それから、小さな虫が活躍します。私たちが心配なのは葉を食べる虫ですが、一方で葉を食べる虫を食べてくれる虫がいます。殺虫剤をまかなければ、葉を食べる虫を食べてくれる虫が死なないので、畑の中の虫のバランスがよくなるのです」。
 自家採種の農家同士で種苗の交換会も行っているそうです。「神奈川県の農家を訪ねて、種の交換をしたら楽しく、そのまま続いています。人と人とのつながり、ほかの農場を見る楽しさ、いろんな種があるおもしろさ、そういうつながりで続けています」。
深谷さんは農場での作業風景の画像を見せながら、苦労話などを披露しました。秩父地方の特産という「借金なし大豆」。ユニークな名前の由来について、「煮ても、豆腐にしても、納豆にしても、何にしてもおいしい。よく売れるので、生産者は借金が必要ないくらいもうかる大豆、という意味」と説明してくれました。
 「長崎赤カブ」「京野菜の菜花」「紅芯だいこん」など、農場で栽培している野菜も紹介されました。「紅芯だいこん」は中国野菜で、切ると赤く、しゃれたサラダなどに使われるそうです。「雲仙こぶ高菜」は、長崎県雲仙地方の野菜で、国際スローフード協会が指定する絶滅の危惧がある食材や種のリスト「味の箱船」に、日本で初めて指定されたそうです。「下が甘くて、上の部分がピリ辛で、とってもおいしいです。九州の方からいただいて、最初の年は霜の影響を受けてしまったのですが、年々気候、風土に慣れてきたのか、畑のあちこちに広がってしまいました」。町田さんは「環境に慣れたというか、『雲仙こぶ高菜』というより、『熊谷こぶ高菜』という感じになってきたんですね」と話しました。
 キュウリの種採りについて。「我々が普段食べているキュウリは熟していないもので、種を採るためには、熟して黄色くなるまで育つのを待ちます。収穫してからも、10日ぐらい放置します。半分に切って中の種を出し、水を入れてかきまぜると、果肉と種が分かれ、ごみが浮いて、いい種だけが沈みます。同じ作業を何度か繰り返し、いい種だけを残します。水に浮いているのが死んだ、未熟な種です。簡単でおもしろい。おもしろいから続けられます。トマトも同様ですが、ゴミを洗い流す前に2~3日放置すると、白い幕が張ります。発酵ですが、発酵してから腐敗に移行する前に種を採ります。なぜ発酵させるかというと、発酵させることで種から由来する病気にかかりにくいと言われています」。
 その後、キュウリの種を収穫するための「母本選抜」について説明がありました。毎年20本だそうですが、できのいいものの中に1本だけ変な形状のもの、「爆弾」を混ぜるそうです。「いいものばかりを採用すると、生命力がなくなるからです。毎年、毎年、いい種を採るために、あえて一本変な形のもの、曲がったものをまぜておきます。そうした知識を勉強すればするほどおもしろく、退屈しません」。
 深谷さんは、長年続けて来た農業への思いを語りました。「種というのは、命の塊です。手のひらの種が、一町ほどの広さの作物を栽培できるものになる。おろそかにできないと思っています。命の塊から、いろんな人の命をつないでいくのです。農薬を使わないもともとの種は茶色です。種採りは手間がかかりますが、若い人で種採りに興味を持つ人が増えているので、どうやってそうした人たちに私の技術や思いを伝えていくのか、どうやって次の世代につないでいったらいいのかな、というのが、今の私の一番の課題だと思っています。興味がある方は、ぜひ来てください」。
 最後に、ふかや農場で生産されたトマトやナス、キュウリの試食会が行われました。

 


 写真説明 深谷さん(左)、町田さん


 ふかや農場       http://w01.tp1.jp/~a426467612/
大地を守る会      http://www.daichi-m.co.jp/

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